最近「フィンランドの子供たちには、虫歯が少ない…」というキシリトール入り※1ガムのテレビコマーシャルを頻繁に見かけませんか。スーパーの店頭にも色とりどりのキシリトール入り商品が並ぶようになりました。しかし、これまでキシリトールの名は一般の方はもちろん、歯科医師にさえ知られていませんでした。
4年前、私に「う蝕予防効果のある甘味料・キシリトール」を教えてくださったのは、大学医局の先輩鈴木章先生※2です。今回フィンランドのトルク大学において、1998年6月7日から1週間の日程で鈴木先生や他のう蝕予防に熱心な先生方と共に研修※3を受けることができました。とても勉強になりましたので、皆様にご報告します。
北欧の森と湖の国、フィンランドはサンタクロースの国、ムーミンの国として有名ですが最近はキシリトールの原産国として世界中の注目を浴びています。
キシリトールは、1975年にトルク大学のカウコ・K・マキネン教授※4により、う蝕予防効果のあることが発見されました。多くの臨床研究を経てその安全性とう蝕予防効果はヨーロッパ各国の歯科医師会の推薦をうけています。
写真は左より 鈴木章先生、 カウコ・K・マキネン教授、 私です。
まず、フィンランドのう蝕予防効果の概略を述べていきます。
フィンランドは、第二時世界大戦でソ連に敗れ、戦後は日本以上の虫歯大国となってしまいました。歯科医師が不足し、9月と3月の1年に2回新入学生を受け入れて、歯科医師の倍増を図りました。国は膨大な歯科医療費に悩まされ、医療費抑制のために国家を挙げての虫歯予防に乗り出したのです。
6歳時※5より予防を開始。予防の中心は
口腔衛生指導(食べ物をとるタイミング/ブラッシング)
フッ素塗布
マキネン教授の研究により、キシリトールがミュータンス菌※6抑制に効果のあることが、発見されました。その後多くの臨床研究を重ねて、その効果が裏付けられました。
キシリトールガムが民間レベルより導入され※7、国中に広まりました。
12歳時のDMFT値が1.2となりました。
フィンランドの小学校では、
1年生を対象に年2回専門家による
虫歯予防の授業が行われています。
1972年に始められたう蝕予防は、約20年間でその目標を達成し、現在ではDMFT値はさらに低くなっているそうです。一方、長年の懸案の歯科医療費抑制については、治療費は減りましたが、予防費※8が増えて全体の半分が予防費となり、その目的は達せられなかったようです。しかし、多くの国民が健康な歯をもち、質の高い生活を送ることができているので、満足しているということです。
1972年から始まった予防活動は、歯の質の強化にフッ素予防費※9を利用しました。もちろん、砂糖やデンプンを頻繁にとることでう蝕が発生する事がわかっていましたから、甘い物は間食ではなく食後のデザートとして食べるようになりました。
また、キャンデー等の菓子は土曜日のみ食べる事などが、習慣として身についていきました。ですから1980年にキシリトール入りガムが広まる以前に、すでに正しい食習慣と、ブラッシング効果、そしてフッ素入りペーストの3本柱による予防の効果はかなり上がっていったのです。
さらにキシリトール入りガムが導入されたことで、予防効果がたかまり、ついに1991年には12歳時※10のDMFT値が1.2にまでなりました。フィンランド中の12歳児の口の中に虫歯経験者が1.2本しかないということなのです。
繰り返しますが、正しい食習慣とブラッシング指導、フッ素の使用の3本柱に加えて、キシリトール入りガムの使用、これで虫歯が防げるということがフィンランドで証明されたのです。
今井歯科クリニックの「元気な子供の歯をつくる会」も、これを柱として予防をすすめています。
※1 キシリトール(xylitol)天然の甘味料で砂糖と糖度が同じ
※2 鈴木章先生は早くからキシリトールについて研究されており、現在ではキシリトールの第一人者として、学会、テレビ、雑誌等でご活躍中です。
※3 虫歯予防を始め歯周病、矯正、ガンなど広範囲にわたる講義が、フィンランドを世界一予防の進んだ国にした教授達によって連日行われました。
※4 カウコ・K・マキネン教授は、現在トルク大学内の国際歯科予防研究所の所長。今回の日本フィンランド虫歯予防会の研修内容、日程全ての面でお世話してくださいました。
※5 最初の永久歯が萌出を始めるのが、6歳頃です。
※6 虫歯の主な原因菌
※7 スマートハビット=(かしこい週間)というキャッチフレーズでキャンペーンをした。
・食後にガムをかむ(虫歯予防)
・かんだガムを紙に包んでゴミ箱にすてる(しつけの教育)
※8 フィンランドの現在の法律では19歳以下であれば、う蝕予防については矯正も含めて自己負担は一切ないそうです。
※9 フッ素入りペーストで1日2回以上ブラッシングを行うよう指導しました。
※10 日本ではDMFT値3.6(厚生省による)となっていますが、現場の我々臨床医からみると6~7以上はあると思われます。